小川さやか

財産も特別な才能もない人が生き抜くには、知恵が重視される。人と渡り合う知恵、ピンチを切り抜ける知恵。タンザニアでは、どんなに貧しくても自分で生きぬくことを考えないといけない。社会保障制度が十分でないなか、知恵で生き抜くしかない。 行商人が「昨日から何も食べていない。買ってくれよ」と言葉をかけると、客は「妻が病気だ。安くしてよ」といった具合。互いに素早く相手の懐具合などの状況を読みあい、「より高く」「より安く」を競い合う。値段が決まった後は、お互いにそれを心を動かされた対価と考える。 アフリカ研究では「モラル(道徳)エコノミー」という言葉がよく聞かれますが、現地の商人の間で暮らすと、道徳、相互扶助という言葉ではちょっと違和感を感じます。物をたかる側、たかられる側ともに知恵を発揮し、「助け合い」を感じさせない商慣習がありますから。